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七章 「動き出す時間」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-08-27 14:28:07

 たくさんの人が行き交う中で、私は彼にゆっくりと近づいていった。

 それはまるで呼吸するかのようなスピードだったかもしれない。

 早すぎず遅すぎず、これから二人がうまくとけあうかのような感じだったと思う。

「佐々木 シオンくんですよね? 私は中学生まで一緒の学校だった安藤 茉白です。私のこと覚えていますか??」

 私はすごく舞い上がっていた。彼しか見えていなかった。

 でも、これが本来の私の姿かもしれない。

 大人になり、いつの間にか様々なものを着飾るようになっていた。

「えっ、はい。そうですが。えっ、安藤さんなの? こんな人の多いところで出会うことってある!?」

 彼はめちゃくちゃ驚いたようで、テンションが上がっていた。

「本当だよね。私もすごくびっくりしてる。久しぶり。元気にしてた?」

 私は連絡をしなくなった申し訳なさがあったけど、久々の感動の再会の雰囲気を壊したくなかったから、あえてそのことは今言わなかった。でもまた会った時かメッセージでちゃんと言おうと考えている。

「久しぶりだね。僕は元気にしているよ。あっ、今会社に向かっている途中?」

「そうだよ」

 彼は私のスーツ姿を見て、そう聞いてくれたのだと思う。

 彼の変わらない優しさがとても心地よかった。

「じゃあ今はあまり話せないだろうし、次の休みの日を教えてもらってもいい? その日にこの近くのカフェでゆっくり話そうよ」

「うん、いいよ」と言いながら、私は次の休みの日を彼に教えた。

 まさか彼からお誘いがあるなんて思ってもいなかったので、私はすごく嬉しかった。しかもスマートだった。

 二人っきりなんて中学生のまとめ役以来のことだ。

 懐かしくこそばゆい気持ちがこみ上げてきた。

 私はたくさん話したいことがある。ずっと直接話せていなかったから。

 こんな状態で、次に会う日をワクワクしないわけがない。

 私たちは次に会う約束をして、お互いの仕事場に向かった。

 彼と別れた後、私は彼と出会えた余韻に浸っていた。

 急に私の目の前から消えた彼に、大人になってから再び会えた。

 そんな奇跡って本当にあるのだなあと素直に驚いた。

 どれほどの確率の先に、私たちは再び出会えたのだろう。

 やはり私たちは運命で繋がっている。

 そして、何より少年だった彼が、素敵な大人になっていてときめきを強く覚えた。

 彼は、私の初恋相手。

 しかも気持ちを伝えることができなかった人。

 だからずっと諦めがつけられない恋。

 今でも変わらず大切で好きな人として心の中にいる。

 そんな人に再び出会って、私の心はどう動くのだろうか。

 胸は今もドキドキと音を激しく鳴らしている。

 結局、私は仕事場についてもずっと彼のことを考えていて、今日はあまり仕事に集中できなかったのだった。

 私は彼との待ち合わせの時間より少し早くに着いた。いつも時間ギリギリの私にしたら珍しい行動だ。

 少し大人になったところを彼に見せたいのかもしれない。

 カフェは、落ち着いた雰囲気があり、私と同じ年代の人が結構いた。

 映えを意識したというよりは、ゆっくりとした空間でのんびりできそうな感じだった。

 このカフェを選んだのも彼っぽいなと思い、笑みがこぼれた。

「ごめん。少し待たせたみたいだね」

 彼は待ち合わせ時間の少し前に来た。時間に余裕を持って行動するところは子どもの頃と変わっていない。

 腕にはおしゃれな腕時計がついていて、かっこいいなと思った。

「大丈夫大丈夫」 

 彼は私に飲み物を聞いた後で、店員さんに自分の分と私の分をさっと注文してくれた。

「前も言ったけど、本当に久しぶりだよね」

 彼は明るい声でそう言ってくれた。私はそうだねと答えながら、あの話をまずしようと決めていた。

 変な誤解をされたくないから。

「佐々木くん、メッセージのやりとりをずっとしていたのに数年前に突然送らなくなってごめんなさい」

「何かあったのかなと思ったんだけど、またこうして出会えたから気にしないで」

 彼は下を向いて少し悲しそうな顔をしていた。彼も何か思うところがあるのだろうか。

「あの時は仕事が忙しすぎて、自分の生活が全然できていなかった。言い訳にしかならないけど、本当にごめん」

「本当に気にしないでいいよ。そんな時もあるから。あの頃ちょうど仕事を始めたということは、安藤さんも大学を出て新卒で働いたの?」

 彼はいつも通りの優しい顔に戻り、そう聞いてくれた。

 ちょっとだけ心が救われた。

「うん。東京の広告会社の営業職についたのよ。佐々木くんは今どんな仕事をしているの?」

 私は優しい彼がどんな仕事を選んだかすごく興味があった。

「僕は、東京の人材派遣会社で人事をしているよ」

「お互いに東京だね。そして、人事って人を見る目が必要だから大変そう」

 すぐに自分のことでいっぱいになる私にはできなそうな仕事で、また自然と彼に尊敬感を抱いた。

 尊敬感が積もっていく。

「うん。自分でしてみたいと思い、今の会社に入ったんだけど、未だに大変だね」

 彼は少し照れ笑いをしながら、どうしてしたいと思ったかも話してくれた。

「でも、その気持ちはわかるよ。私も営業職がしたいと思って今の会社に入ったけど、こんなに大変だなんて思ってなかったもん」

「安藤さんはどうして営業職をしようと思ったの?」

 彼の知的さに憧れたからとはさすがに恥ずかしくて言えなかったから私は少し焦った。

「私、人と話すのが好きだったでしょ? それを専門にする仕事に就きたいと思ったのよ」

 ちょっと早口になってしまった上に、顔が赤くなった。

 彼に感情を見透かされていないだろうか。

「確かに子どもの頃からおしゃべりさんだったよね。時間があるとすぐに隣の子に話しかけてたよね」

 思い出がどんどんよみがえってくる。

 それから彼と学生の頃の話をたくさんした。

 話が途切れることはなかった。

 こんなに楽しいのは久々だった。

 また会えるかなと私たちはお互いに言いながら、カフェをあとにしたのだった。

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